翼くんと銭湯文化──ほどける場所の記憶
「キャプテン翼が銭湯絵に描かれた」 そんなニュースに、思わず足を止めた。 葛飾区の富士の湯に描かれた翼くんは、湯気の中でオーバーヘッドキックを決めている。 その姿は、まるで地域のヒーロー。 子どもの頃、テレビの前で夢中になったあの翼くんが、今は銭湯の壁に立っているなんて。
最近はサウナがブームだ。 “整う”という言葉が流行り、効率よくリフレッシュすることが求められている。 でも、銭湯にはもっと“ほどける”ような空気がある。 実家にも風呂はあったけれど、近所の銭湯には家族で通った。 桶の音、湯気の向こうに見えた父の背中、知らないおじさんの「熱いぞ〜」という声。 そこには、自然な近所づきあいがあって、普段話さない人とも声を交わせた。
今では、そんな場所がほとんどなくなってしまった。 隣に誰が住んでいるかもわからない時代。 それでも、立石のせんべろ街や銭湯には、まだ“人の気配”が残っている。 酔いがまわるほど、心の距離が近づく不思議な空気。 湯気の中で交わす挨拶、カウンター越しの笑い声、肩を並べて飲む一杯。 それは、絶やしてはいけない文化だと思う。
銭湯は、ただの入浴施設じゃない。 人と人が、肩書きも立場も越えて、自然につながれる場所。 翼くんの絵が描かれた今、もう一度その価値を見直してみたい。 銭湯文化も、捨てたもんじゃない。
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